緊急警告「とりあえず公益認定」は危険!
2008年8月18日

非営利法人総合研究所(NPO総研)
主席研究員 福島 達也

 

公益認定法第30条では、公益認定を取り消された時に、公益法人が取得したすべての公益目的事業財産を足し上げ、そこから公益目的事業を行うために使った財産を控除し、残った公益目的取得財産残額は、勝手にそれらの財産を処分することはできないよう、解散したわけでもないのに、1ヶ月以内に類似事業目的の公益法人等、又は国や地方公共団体に贈与しなければならない。

もちろん、即、国に没収というわけではなく、類似事業を行う公益法人等(公益社団法人・公益財団法人のほか、「学校法人」「社会福祉法人」「更生保護法人」「独立行政法人」「大学共同利用機関法人」「地方独立行政法人」と、それらに準ずるものとして、政令で定めた「特殊法人」や「NPO法人のような非営利法人」)に寄付してもよいのだが、それでも1カ月以内というのはあまりにも短すぎるような気がする。

ということは、財産が多ければ多いほど、命取りとなり、寄付と同時に解散をすることになるのはだれの目から見てもそうだろうし、政府もそうなるために公益目的財産を寄付させるといっても過言ではない。

もちろん、認定の取消しを受けるような悪事又はいい加減な経営をしていたわけだから、そんなの当たり前だと思う人も多いだろうし、法人側も文句を言うこともできないような状況だろう。



しかし、ここでとんでもない事実が発覚した。

それは、自ら公益認定を取り下げて一般法人に移行する、いわゆる「野に下る法人」にもこれと同じ扱いをするということだ。

今のところ、「旧主務官庁や関係団体に相談したところ、公益認定を得て公益法人になるべきという意見だ」という法人が多く、そういう言葉を鵜呑みにして、「とりあえずビール!」ならぬ「とりあえず公益認定!」という考え方をする法人が後を絶たない。

相当の研究検討の結果、公益認定法人を目指そうというならわかるが、たいして一般法人と公益認定法人の違いも研究せず、又はどちらに移行した場合どうなるかというシミュレーションもせずに、「公益認定が善」で「一般移行が悪」という考え方をする法人が多いのも事実だ。

もし、そういう法人が、とりあえず公益認定を目指して、ダメだったら一般法人に移行しようとしていた場合、最初の認定申請はどちらかというと実績ではなく、予算や計画が審査の対象だから、絵に描いた餅で審査されるということになり、何とかうまい絵を描いて、公益法人になれたとしよう。

しかし、認定を維持するためには、今度は結果を重視されることになるので、毎事業年度の決算書や事業報告により、審査が毎年継続していく。そうなると、最初の計画通りいかないという団体や、認定を維持するのはあまりにも窮屈すぎるという法人が後を絶たないだろう。

そして、究極の選択をするはずだ。そう、「やっぱり一般法人にしよう」という選択だ。

特例民法法人の時にそういう判断をすれば、移行申請時に取得している「公益目的財産」をすぐには使わなくても、何十年という公益目的支出計画を立てて、その計画通りに公益事業を行っていれば、いつかは公益目的財産が帳簿上0円となり、行政庁の縛りも解けて、法人の好き勝手に運営することができるようになる。

しかし、あまりにも周りに影響を受けたり、知識が不足していて、最初の判断を「公益認定法人」としてしまった場合、たった1日でも公益法人を経験してしまうと、自ら一般法人に移行しようと決断しても、公益目的支出計画は立てさせてもらえずに、罰として1カ月以内に公益目的財産をどこかに寄付しなくてはいけなくなるのだ。

認定取り消しと違って、別に法に違反するようなことは何もしていなくても強制寄付となるのだから、たまったものではない。なぜ犯罪を犯して認定を取り消される法人と同じ扱いを受けるのか、大変理解に苦しむ。

しかも、地方ではそういう法人が多そうだから、ここで緊急警告とさせていただいたのだ。

地方の場合、情報不足や相談するところが少ないという理由から、「とりあえず公益!」という法人が特に多い。

私が講演を依頼される場合、初めから「公益認定法人ありき」で、内容も「公益認定法人に移行するには」などという法人が特に地方に多いのだが、決算や事業の中身を見てみると、決して公益認定を取得すべきでない法人までも、そういう方針で進んでいることがよくある。

そういう法人に限って、「もしうまくいかないなら後から一般法人にしてもよい」と考えているところもある。本当に危険だ。



最初の一歩を「公益認定法人」に踏み出した場合、後から「一般法人」に引き返すことはまずできないということを、もっと政府はPRすべきだろう。

そうでもしないと、きっと数年たって、あっちでもこっちでも悲劇の解散が後を絶たなくなるであろう。

内閣府の公益認定等委員会事務局」が配っている移行用のパンフレットにもそういうことは一切書かれていない。

ただ、最後の比較表をよく見ると、公益法人の特徴はデメリット(認定基準遵守の義務や取り消しなどのこと)ばかりが書かれていて、一般法人の方はメリット(柔軟な事業展開可能とか自主的な運営が可能など)ばかりが書かれているので、暗に政府の方でも「とりあえず公益はやめましょうね」と言いたいのだろうが、読んでいる法人側は果たしてそうとらえているだろうか。私はそう思わない。

本来はこう書くべきではないだろうか。

「とりあえず一般法人に移行し、そこで何か問題があるようであれば、次に公益認定法人を検討してみましょう」と。

つまり、一般法人から公益認定法人に移行するのは、5年に関係なくいつでもできるのだが、公益認定法人から一般法人に移行するのは、事実上不可能に近いということをきちんと説明してあげるべきだ。



ただ、これは私のあくまでも予想だが、きっと数年して、あっちでもこっちでも、悲劇の解散に追い込まれそうな公益認定法人が続出し、政府も方針を変え、「公益目的支出計画を立てて、公益目的財産を消費する」という、特例民法法人に与えた特権をこちらにも与えることになるであろう。

それが何年先かはわからないが、悲劇の解散が社会問題になるまでは変えないかもしれない。最初に犠牲になる法人には悪いが、他の多くの法人のために殉職する「特攻隊法人」はどこになるのだろうか・・・・。



結論として、従来の公益法人の方々に言いたい。まずは、「とりあえず公益認定」とせずに、どちらに移行すると決める前に、公益認定法人と一般法人を研究検討しよう。

そして、次に、自分たちの法人がどちらにも移行するというシミュレーションをして、そのメリットデメリットを研究検討しよう。

最後に、それを指標化して、点数をつけ、評議員会や社員総会で議論しよう。



もしそれらが自分たちだけでできない場合は、私たちに相談して欲しい。

この選択は、法人の存亡にかかわるような最重要課題なのだから、ここで多少の出費を惜しまないほうがいいだろう。後の祭りにならないためにも。

非営利法人総合研究所

戻る